シリコン製のボールペン

腐れ作家の芥話

「システム」にならないで

東京に来て早1年。こちらに来てからというもの、お金とは距離をとった生活をさせてもらっている。(7月1日現在、手元・口座合わせて4000円しかない)

 

そんな私の生活の支柱となっているのが、神器・クレジットカードさんである。

私はクレジットカードさんとズブズブの関係を築きながら、日々ギリギリの生活を送らせていただいている。

 

その日も私はクレカさんを握りしめ、下流中流階級のオアシス「西友」さんに、夕飯の食材を買いに向かっていた。

 

その日の献立は「豆腐チャーハン」

フライパンで水を限界まで切った豆腐を崩しながら炒め、ネギやらウインナーやらを加えてさらに炒めることで完成する、米を一切使わずにできるチャーハンだ。

 

そんな豆腐チャーハンの食材をかごに入れレジに向かいお会計を済ませる。合計400円程の買い物であった。

 

私はいつものように店員さんにクレカさんを渡した。その時だった。

 

「ご一括でよろしいですね」

 

という言葉を全て聞き終わる頃には、既に私の400円の支払いは一括で処理されていた。

 

私は呆気にとられていた。呆然とする私を気にも留めることなく、店員さんは流れるように私の商品かごを横にスライドさせ、次の客の会計に移っていた。

 

・・・よくない。これはよくないぞ。

 

その店員さんは「400円なら一括に決まっている」という自己完結の元、有無を言わさず私の会計を一括処理したのであろう。

恐らくそれまでの店員さんの経験上、400円のクレカさんでの支払いを分割で行った経験がなかったのであろう。だからこそあのような一瞬の隙も見せない対応をしたのであろう。

 

これはまずい。あの店員さんは過去の経験にとらわれ自動ログインしてしまっている。思考が抜け落ちてしまっているのだ!まずいぞ、このままではあの店員さんは「システム人間」になってしまう。

 

なんとかしなければ!私が救ってあげなければ!

 

翌日、私は同じようにクレカさんを握りしめ、下流中流階級のオアシス「西友」さんに向かった。しかし、私は昨日の私とは違う。現代社会のうねりに飲み込まれ「システム人間」になってしまう哀れな店員さんを救うのだ!そんな強い意志を持って私は「西友」さんへと足を運んだ。

 

昨日と同じ「豆腐チャーハン」の材料と飲み物などをかごに詰めレジに向かった。

奇しくも昨日と同じ店員さんであった。

 

会計が始まる。合計約500円。すかさず私はクレカさんを差し出す。

間髪入れず店員さんは言う「ご一括で・・・」

 

2回でお願いします。

 

呆気にとられる店員さん。私はもう1度言った。

 

2回でお願いします。

 

 

想像だにしない返答を受け戸惑いながらも、2回での会計を手はずを進める店員さん。

 

やった。やったぞ。私は1人のシステムに捕らわれていた人間を救うことができたのだ

マニュアルに支配され社会の歯車の一部になりかけていた店員さんを、意思を持った1人の人間として自覚させることに私は成功したのだ。

 

そう私は救世主なのだ。ヒーローなのだ。メシアなのだ。

その日の豆腐チャーハンの味は、いつもより何倍も格別であったことを今でも覚えている。

 

前回の記事にも記述していたが、この世に生きる多くの人間は「芥」なのである。しかし、我々ははっきりと自分の意志を持った「芥」なのである。

「芥」であることとに気づかず、自己の意思を知らず間に捨て、ぼんやりを生きている「システム芥」にはなってはいけないのだ。

 

今回の一件で学んだことを私は強く胸に刻み込み、クレカさんの支払いを行うために現金さんを持ち、ATMへと向かった。

 

・・・今月もリボ払いか。